―伊能忠敬没後二百年記念―
「御用測量 熊本県資料集」の刊行を喜ぶ

                              渡辺一郎

 伊能測量は国家事業であって、伊能忠敬個人とか伊能測量隊のみの功績ではないというのは私の持論である。約20年前に上梓した拙著『伊能測量隊まかり通る』のなかで、幕府の命令ではあるが、測量を援助した地元の諸藩、町村、浦々の人的・資金的協力が膨大であったことを取上げ、手元の僅かな資料をもとに具体的な説明を試みた。
 他に伊能忠敬が作成した地図の種類別・時期別に、内容の特徴と現存の有無など伊能図の解説を述べ併せて現在は国宝となっている世田谷伊能家伝存未公開史料のなかの珍しい史料を紹介した。予想外の好評をいただき、六刷を重ねたが、ここから始まって20年。色々な公的機関、多数の人々のお世話になって、最終版伊能大図中図小図をデータ化し、原寸復元展示をおこなうことが出来た。
 いっぽう伊能忠敬記念館に所蔵されている伊能家伝来の史料は、文書、地図、機器類など2345点が2010年に国宝に指定されているから保存、閲覧に問題はない。
 心配なのは、地元町村浦方の諸役人や庄屋が記録した地元側史料の行く末である。公的機関に収納されたものはよいとして、伊能測量協力者子孫に伝えられた史料は、膨大な庄屋文書のなかに埋没したり、世代交代に伴い処分される恐れがあり大変心配している。
地元史料収集について伊能忠敬記念館は殆ど関心を持たないので、各県ごとに有志機関あるいは個人が専門グループを作って収集保存するしか、方法はなさそうである。幸い現代は電子データ化が容易であるから、原本と、できれば解読文をデータ収録していただけば、後世に伝えることができると思う。
地元データが最もよく残っているのは愛媛県域である。それだけ作業が大変だったのであろう。記録に関しては愛媛県歴史文化博物館(宇和町)の学芸員さんが熱心な方で、徹底して収集されているので問題がない。
 この話を熊本の平田さんにしたところ、一念発起して、熊本県の伊能測量資料の調査(関係古文書探索、写真撮影、釈文)にとりかかり、こうして世に出る。こんなうれしいことはない。
 熊本には細川藩の史料が残っているから、大藩と伊能測量の詳細な係わり、といった新しい発見が本資料中にあるかも知れない。薩摩藩、毛利藩という大藩の対応記録が一部しか残っていないので、細川藩の測量対応には大変興味があり、楽しみにしている。
 ついでの話で恐縮であるが、この件を長野県の会員の方にお話したら、信州は私がやるとおっしゃって、うまくいきそうである。物事は始めてみないと分らないもの。あとに続く方々が出られるなら幸いである。
  1017年11月 
                         (伊能忠敬研究会名誉代表)

*元原稿は縦書き、漢数字である。